離婚協議書の住宅・住宅ローンの取り決め方

住宅の条項は、まず「住み続けるのか、売るのか」の型を決め、その型に合わせて条文を組み立てます。ローンの負担の約束は、夫婦の間のものにとどまります。

トップページ › 離婚協議書の住宅・住宅ローンの取り決め方
「ローンは夫が負担する」と書いても、貸し手との関係は変わりません。債務を動かすには、債権者が関わる債務引受などの仕組みが要ります。

このページの要点

  • 住宅は居住継続型・売却型・二段階型の三つの型に分け、型ごとに条文の中心を変える。
  • 売却型は、売却代金の充当順序(借入金の返済、その他の返済、残額の帰属)と不足額の負担を、一つの条文で書く。
  • 債務を負担する約束は夫婦間のもの。貸し手との関係は、債務引受(民法470条・472条)や保証(同446条)の仕組みで別に整える。
  • 登記は原則として共同で申請する(不動産登記法60条)。協議書には、協力する義務・期限・費用の負担を書く。

結論:住宅は「住み続ける」か「売る」かで書く内容が分かれ、ローンの負担の約束は金融機関には当然には通用しない

離婚の条件の中で、住宅は財産分与の対象としていちばん金額が大きく、しかもローンという債務が付いてくることの多い項目です。名義が一方になっている、夫婦それぞれが借りている、一方が相手の借入れの保証人になっている、といった形はさまざまですが、協議書に書くときの出発点は同じです。まず、その家に誰が住み続けるのか、それとも売るのかを決め、その型に合わせて条文を組み立てます。

この型の選択を飛ばして「不動産は妻のものとする」「住宅ローンは夫が負担する」「売却代金はローンの返済に充てる」といった文を別々の条に置くと、三つの条文がたがいに食い違います。たとえば、ローンを負担するのは夫だと書きながら、売却代金でローンを返す、と書いてあると、売却までの返済は誰が払うのか、代金で返し切れなかった残りは誰の負担か、返済後に残ったお金は誰のものか、が読み取れません。このページでは、住宅に関する条項を「何を条文にするか」に絞って整理します。登記の申請や金融機関との手続の進め方そのものは、このガイドでは扱いません。財産分与全体の考え方は財産分与の書き方、慰謝料など他の金銭条項との関係は慰謝料・清算条項の書き方で整理しています。

結論を先に並べます。

  • 最初に型を決める。住み続ける(居住継続型)か、売る(売却型)か、一定期間住んでから売る(二段階型)か。型によって書く条文が変わる。
  • 売却型は、売却代金の充当順序を一つの条文で書く。借入金の返済、第三者への返済、残額の帰属を、順番に並べる。足りないときの不足分の負担も同じ条に書く。
  • 「ローンは一方が負担する」は夫婦間の約束にとどまる。金融機関などの債権者との関係は、債務引受や保証の仕組み(民法470条・472条・446条)に沿って別に整える必要がある。
  • 居住継続型は、名義、ローンの支払い、固定の費用、住める期間、払えなくなったときの扱いを書く。共有のままにするか、名義を一方に寄せるかでも書く内容が変わる(民法249条・252条)。
  • 登記が必要になる場面では、協議書に「協力する義務」と「費用を誰が負担するか」を書く。登記の申請は原則として共同で行う(不動産登記法60条)。

住宅の条項を書き始める前に手元に置くもの

  • 登記事項証明書(所有者、持分、抵当権などの権利の状況)
  • ローンの契約書と直近の返済予定表(借り手、連帯債務者、保証人、残高、返済方法)
  • 住宅の購入時に親族などから受けた援助があるかどうか、その金銭が贈与だったのか貸付だったのかが分かるもの
  • 管理費、修繕積立金、固定資産に関する納付書など、住み続ける間に生じる費用の資料
  • 子の通学や生活の事情(居住地を変えられるかどうか)

最初に決める:居住継続型、売却型、二段階型

住宅の扱いは、大きく三つの型に分けると整理しやすくなります。型ごとに、条文の中心になる事柄が違います。

住宅の取り決めの三つの型と、書く内容の中心

居住継続型売却型二段階型
内容離婚後も一方が住み続ける住宅を売って、代金を整理する一定の期間は住み続け、その後に売る
条文の中心名義・持分、ローンの支払い、固定の費用、住める期間、払えなくなったとき売却の方法と期限、代金の充当順序、足りないときの不足分、売却までの費用居住の期間(終期)、期間中の費用、終期が来たときに売却へ切り替える手順
金融機関との関係名義や居住の状況が変わることについて、ローン契約の条項の確認が必要になることがある抵当権を外してもらう段取り(代金での完済と同時に行うのが一般的)居住期間中は居住継続型と同じ確認が必要。終期で売却型の確認が加わる
起きがちな食い違い住む側と名義人・借り手が別のとき、払えなくなった場合の責任の所在「ローンは○が負担」と「代金でローン返済」が別々の条に置かれる終期の定めが曖昧で、期間が過ぎても売却に移れない

どの型を選ぶかは、夫婦の資力、子の生活、住宅の価値と借入残高の関係によって決まります。借入残高が住宅の価値を上回っている状態(いわゆるオーバーローン)かどうかは、型を選ぶ前に把握しておく必要があります。オーバーローンの場合、売却しても代金だけでは借入れを完済できず、完済できなければ担保の抵当権を外してもらえないのが通常だからです。この点は金融機関との契約の内容によりますので、契約書の条項の確認が前提になります。

子がいる家庭では、居住をどこにするかは子の生活に直結します。民法766条1項は、父母が協議離婚をするときの子の監護に関する事項を協議で定める際、子の利益を最も優先して考慮しなければならないと定めています。住宅の条項は金銭の条項に見えますが、子の通学や生活の安定という観点から、住み続ける期間を子の年齢や学年と結びつけて定める書き方もよく見られます。親権や監護の定め方は親権・監護・共同親権の書き方で扱っています。

売却型:売却代金の充当順序を、一つの条文で書く

住宅を売る場合、協議書の条文が整っているかどうかは、「売却代金をどの順番で何に使うか」が一つの条文で完結しているかで見分けられます。順序が複数の条に散らばっていると、条文どうしを読み合わせたときに矛盾が出ます。

売却型の条文に入れる要素を、順に挙げます。

売却型の条項に入れる要素

売却の方針

誰が仲介を依頼するか、売却価格の下限をどう決めるか、売却の期限の目安をいつにするか。

売却への協力

内覧への対応、書類の用意、引渡し時期の調整。協力しないときの扱い。

代金の充当順序

売却費用を控除した後の代金を、借入金の残額全部の返済、その他の返済、残額の帰属の順に並べる。

不足が出たとき

代金で借入金を返し切れない場合の不足額を、誰がどのように負担するか。

売却までの費用

売却が完了するまでのローンの返済、管理費、固定の費用を誰が負担するか。

売却できないとき

期限までに売れない場合の価格の見直し方法と、それでも決まらない場合の次の手順。

家事事件手続法244条・245条

「問題が生じた場合は話し合う」とだけ書いても、話し合いがつかなかったときの次の手順は決まりません。

条文の組み立ての例を示します。文中の「○」は、夫婦の事情に合わせて入れる箇所です。

条文例第○条(不動産の売却と代金の充当)

  1. 甲及び乙は、別紙目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を、令和○年○月末日を目安として売却する。売却の方法、仲介を依頼する者及び売却価格の下限は、甲乙が書面(電磁的方法によるものを含む。)で合意して定める。
  2. 本件不動産の売却代金から売却に要した費用を控除した額(以下「売却代金」という。)は、次の順序で充当する。(1)本件不動産を担保とする借入金の残額の全部の返済 (2)前号の返済をした後に残額があるときは、別途定める○○の返済 (3)なお残額があるときは、甲及び乙が○対○の割合で取得する。
  3. 売却代金が前項第1号の借入金の残額に満たないときは、その不足額は○が負担する。
  4. 売却が完了するまでの間の借入金の返済及び本件不動産の維持に必要な費用は、○が負担する。

売却の時期、割合、負担者はいずれも夫婦の合意で決める部分です。ここでは、順序・不足・売却までの費用の三点が一つの条にまとまっていることが要点です。

第2項第2号の「その他の返済」は、住宅の取得や維持のために親族などから借り入れた金銭がある場合の返済を想定した書き方です。ここで確認しておくべきなのは、その金銭が貸付けだったのか贈与だったのかという点です。貸付けであれば返済の義務がありますが、贈与であれば返済の義務は通常ありません。書面や振込の記録、やり取りの記録が残っていないと、後になって「返す約束だったか」が食い違うことがあります。また、協議書の当事者でない人(援助をした親族など)に、その協議書をもとに返済を請求する権利が生じるかどうかは、別の整理が必要です。返済を約束する条項を置くのであれば、返済の事実を残す方法(領収の記録など)まであわせて決めておくと、後の食い違いが減ります。

書き方の例(一般的な例) 売却型で食い違いやすい書き方

負担者と売却代金

よくある書き方住宅ローンは夫が負担する。不動産は売却し、売却代金はローンの返済に充てる。
整えた書き方売却が完了するまでの借入金の返済は○が負担する。売却代金は、まず借入金の残額の全部の返済に充て、代金で足りないときの不足額は○が負担する。

理由「負担する」と「代金で返す」が別の条にあると、売却までの返済と、代金で足りなかった分の扱いが読み取れない。一つの条で順序と不足を書く。

売却の見通し

よくある書き方売却に関して未定の事項が生じたときは、夫婦で円満に協議する。
整えた書き方期限までに売却できないときは、○か月ごとに売却価格を見直し、仲介を依頼する者の変更を協議する。見直しを経ても合意できないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることができる。

理由協議するとだけ書くと、協議が止まったときに動かせない。価格の見直しと次の手順を書いておく。

売却に協力しない場合

よくある書き方双方は誠実に協力する。
整えた書き方内覧の日程調整、必要書類の提出は、相手方から求められた日から○日以内に行う。

理由誠実に、という書き方は、何をしなかったときに義務違反になるのかが分からない。具体的な行為と期限で書く。

債務の負担と債権者:夫婦間の約束は、債権者には当然には通用しない

住宅ローンについて、協議書に「住宅ローンは夫が負担する」と書くのは、夫婦の間の分担の約束です。ローンの貸し手(債権者)に対しては、この約束だけでは何も変わりません。ローンの契約上の借り手が妻であれば、協議書に何と書いてあっても、貸し手は妻に返済を求めることができます。夫が払わなかったときに妻が貸し手に支払い、その分を夫に求めること(求償)は、協議書の条項に基づいてできるかもしれませんが、貸し手との関係で妻の責任がなくなったわけではありません。

貸し手との関係で責任を動かす仕組みは、民法に用意されています。債務を引き受ける契約(債務引受)には、引き受ける人が新しく同じ債務を負い、元の債務者も責任を負い続ける「併存的債務引受」(民法470条)と、引き受ける人が債務を負い、元の債務者は債務を免れる「免責的債務引受」(民法472条)があります。免責的債務引受は、債権者と引受人となる者の契約によってするか、債務者と引受人となる者が契約をして債権者が引受人に承諾をすることによってします。つまり、債権者の関与なしに、夫婦間の合意だけで元の債務者の責任をなくすことはできません。

住宅ローンの負担に関わる条文の趣旨

民法436条

連帯債務では、債権者は連帯債務者の一人に対し、または同時もしくは順次に全員に対し、全部または一部の履行を請求できる。夫婦で共同して借りている場合に関わる。

民法446条

保証人は、主たる債務者が履行しないときにその履行をする責任を負う。保証契約は書面でしなければ効力を生じない(2項)。

民法454条

保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担したとき(連帯保証)は、催告の抗弁・検索の抗弁(前二条の権利)を有しない。

民法470条

併存的債務引受。引受人は債務者と連帯して同一内容の債務を負担する。

民法472条

免責的債務引受。債権者と引受人の契約、または債務者と引受人の契約に債権者の承諾を加えることで、債務者は債務を免れる。

民法472条の3

免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。

条文の要旨です。実際のローンの契約では、契約書の条項(期限の利益の喪失、担保の取扱いなど)の確認が必要です。

ここから、協議書にどう書くかの方向が見えてきます。第一に、夫婦間の負担の約束と、貸し手との関係を整える約束を、別の条文として書き分けます。第二に、貸し手との関係を整えることを約束するなら、「誰が」「いつまでに」「貸し手のどのような承諾を得るよう努めるか」を書きます。「保証を外す手続を行う義務を負う」と書いても、承諾するかどうかは貸し手が決めることなので、承諾が得られなかった場合の手当て(借換え、売却、一括返済など)まで書いておかないと、条文が実行できない状態で残ります。第三に、一方が貸し手に支払うことになったときの求償の条項を置きます。

書き方の例(一般的な例) 保証や連帯債務を外す約束の書き方

保証人の地位

よくある書き方妻は、夫の債務の保証人・連帯保証人の地位に就かない。夫は保証解除の手続を行う義務を負う。
整えた書き方乙は、令和○年○月末日までに、貸付人から甲を保証人から外すことについての承諾を得るよう努める。承諾が得られなかったときは、借換え又は売却により、保証の対象となっている債務を完済する。

理由保証の解除は貸付人の承諾が必要。承諾が得られなかった場合の次の手段まで書かないと、義務だけが残って実行できない。

支払ったときの求償

よくある書き方(定めなし)
整えた書き方甲が、乙の負担すべき債務について貸付人に支払ったときは、乙は、甲に対し、その支払額及び支払の日の翌日からの遅延損害金を支払う。

理由貸付人に支払った側が、元の負担者に請求する根拠を、協議書にはっきり置く。

居住継続型と二段階型:名義、ローンの支払い、住める期間、払えなくなったとき

離婚後も一方が住み続ける場合、まず「誰の名義か」「ローンの借り手は誰か」「住むのは誰か」の三つが同じ人か別の人かを確認します。三つが同じ人であれば、書く内容は比較的単純です。三つのうち一つでも別の人であるとき、協議書の条項の役割が大きくなります。

名義を住む人に寄せる場合は、名義の変更と借入れの扱いを組み合わせて考えます。名義だけを変えて借入れを元の借り手に残すと、住む人は自分が借りていない借入れの担保になっている家に住み、借り手は自分のものでない家のローンを払い続ける形になります。借り手が払えなくなったときの影響が、住む人に及びます。名義の変更が借入れの契約上の問題にならないかは、金融機関との契約条項の確認が必要です。

名義を変えずに共有のままにする場合は、使い方と費用の決め方を書きます。共有の不動産では、各共有者は共有物の全部について持分に応じた使用ができ、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除いて、他の共有者に対し自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うとされています(民法249条2項)。離婚後に一方だけが住むなら、この対価を支払うのか、無償にするのかは「別段の合意」として協議書に書いておくのが筋です。共有物の管理に関する事項は持分の価格に従ってその過半数で決める(民法252条1項)ので、持分が同じ割合であれば、一方の考えだけでは管理に関する事項が決まりません。共有物に変更を加えるには他の共有者の同意が要ります(民法251条1項)。賃貸に出す、大規模な修繕をする、といった場面の決め方も、あらかじめ書いておくと後の行き詰まりを避けられます。

名義人でない側が住み続ける場合、名義人が無償で住まわせる形になることがあります。これは使用貸借(民法593条)に近い関係です。使用貸借は、期間を定めたときはその期間の満了によって終了し、期間を定めず使用の目的を定めたときは借主がその目的に従い使用を終えることによって終了し、借主の死亡によって終了します(民法597条)。住む期間を子の年齢や学年に結びつけて書くなら、終期を日付か、客観的に判断できる出来事(たとえば子が一定の学校を卒業する月の末日)で書きます。終了した後の収去や原状回復は民法599条に定めがあります。協議書では、終了時の明渡しの時期、その間の光熱費や修繕費の負担も書きます。

条文例第○条(居住の継続と費用の負担)

  1. 乙は、本件建物に、令和○年○月末日まで居住することができる。ただし、乙が死亡したとき、又は居住の目的で使用しなくなったときは、居住の期間はその時に終了する。
  2. 前項の期間中、本件建物に係る借入金の返済は甲が負担し、管理費及び光熱費その他居住に伴う費用は乙が負担する。
  3. 乙は、第1項の期間が満了したときは、本件建物を明け渡し、甲は、その後○か月以内に本件建物の売却に着手する。売却代金の充当は、第○条(不動産の売却と代金の充当)による。
  4. 甲が第2項の借入金の返済を怠り、又は怠るおそれがあるときは、甲は、乙に対し、遅滞なく通知する。

住む期間の終わりを日付で書き、終了後に売却型の条文へ切り替える書き方の例です。切り替え先の条を指すことで、条文どうしの食い違いを避けます。

居住継続型で最も見落とされやすいのが、「払えなくなったとき」の条項です。住み続ける側が借り手であれば、支払いが遅れたときの対応(相手方への通知、売却への切替え)を書きます。住み続ける側が借り手でないなら、借り手が払えなくなったとき、住む人が何を知らされ、どう動けるかを書きます。借入金の返済が止まると、担保の抵当権が実行されて住宅を失う可能性があるため、返済が遅れそうなときに他方へ通知する義務、返済状況を確認する方法(返済予定表や通帳の写しを一定の時期に見せる、など)を書いておくと、手遅れになるのを防げます。

二段階型:一定期間住んでから売る

子が小さい間だけ今の家に住み、一定の時期に売却して代金を整理するという形は、居住継続型と売却型を一つの協議書の中で組み合わせるものです。書き方の要点は、居住の期間の終わりと、売却型の条文への切替えを明確にすることです。

二段階型の条文を組み立てる順序

  1. 居住の期間を決める日付、または子の学年などの客観的な出来事で終期を書く。終期の前に、住む側が早く出たくなった場合の扱い(期間の短縮)も書く。
  2. 期間中の費用の分担を決める借入金の返済、管理費、修繕費、固定の費用を、誰が負担するかを書く。通常の維持の範囲と、大きな修繕を分けて書く。
  3. 払えなくなったときの手順を書く返済が遅れたときの通知義務、早期の売却への切替え、売却を前倒しする条件を書く。
  4. 終期が来たときの切替えを書く明渡しの期限と、売却型の条文(売却代金の充当)へ移ることを書く。終期が来ても明け渡さないときの扱いも書く。
  5. 売却代金の分け方を書く売却型の条文と同じ。期間中に借入金が減った分、住宅の価値が変動した分があっても、割合で整理できる書き方にする。

段階を分けて書くほど、各段階の食い違いが出やすくなります。完成した条文は、日付と負担者を時系列に並べて読み直すと確認しやすくなります。

名義変更・抵当権の抹消などの登記:協議書には「協力する義務」と費用負担を書く

住宅の名義を変える、売却して買主へ名義を移す、完済して抵当権を外す、といった場面では、不動産の登記が関わります。不動産に関する権利の得喪や変更は、登記をしなければ第三者に対抗できないとされています(民法177条)。権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者と登記義務者が共同でしなければなりません(不動産登記法60条)。このため、離婚の条件として「名義を移す」と約束した場合、相手方の協力が得られなければ登記の申請が進みません。

登記の申請の手続自体は、このガイドでは扱いません。協議書に書くのは、次の三点です。

  • 協力する義務。名義を移す側が、登記の申請に必要な書類に署名・押印するなど、必要な協力をする義務を負うこと。協力の期限を日付で書く。
  • 費用の負担。登記に要する費用や、必要書類の取得費用を誰が負担するか。
  • 協力しないときの扱い。期限までに協力しなかったときの扱い(再度の請求、調停の申立てなど)を書く。「速やかに」ではなく日数で書く。

また、名義変更は一度に完了させる必要はありません。たとえば、売却のときに買主へ直接名義を移すのであれば、夫婦間の名義変更を省ける場合もあります。ただし、そのためには売却の時点まで売主として協力できる状態が続いていることが前提になります。離婚後に連絡が取れなくなる、住所が分からなくなる、という事態に備えて、連絡先の変更を通知する義務を、他の条文(連絡の方法)と合わせて書いておくと役に立ちます。

確認の問いと、書面にする前のチェック

住宅の条項を書く前に、次の問いに答えられるかを確かめます。答えが出ない問いは、そのまま協議書に残さず、決めるための材料(金融機関への確認、査定など)を集めてから書きます。

確認の問い住宅の条項を書く前の問い

  1. 住宅の名義、ローンの借り手、保証人の地位は、それぞれ誰か。

    三つが別々の人のとき、「ローンは誰が負担する」だけでは足りない。登記事項証明書とローンの契約書で確かめる。

  2. 名義や居住の状況が変わるとき、ローンの契約にどんな条項があるか。

    契約条項によっては、変更に貸し手の承諾が必要なことがある。条項の存在と内容を先に確認する。

  3. 売るなら、売却代金で借入金を完済できる見込みか。

    オーバーローンなら、不足額を誰がどう負担するかを先に決めないと売却に進めない。

  4. 住み続ける側は、返済と維持費を払い続けられるか。払えなくなったらどうするか。

    払えなくなる事態に備える条項(通知、売却への切替え)がないと、気づいたときには手遅れになる。

  5. 子の通学や生活の事情から、居住をいつまで続ける必要があるか。

    終期を子の学年などに結びつけるなら、日付か客観的な出来事で書く。

  6. 住宅の取得や維持に、親族などの援助が入っているか。贈与か貸付けか。

    貸付けなら返済の条項が必要。贈与なら返済の条項は要らない。記録が残っているかも確かめる。

住宅の条項を書き終えたときの点検

  • 財産分与の条、債務の分担の条、売却の条が、同じ事実(誰が負担するか)で矛盾していない
  • 売却代金の充当順序が、一つの条文の中で番号を付けて書かれている
  • 代金で借入金を返し切れないときの不足額の負担者が書かれている
  • 貸付人との関係を整える約束には、期限と、承諾が得られなかった場合の次の手段が書かれている
  • 居住を続ける期間の終わりが、日付または客観的な出来事で書かれている
  • 登記が必要な場面で、協力する義務の期限と費用の負担者が書かれている
  • 「話し合う」で終わっている項目に、次の手順(調停の申立てなど)が書かれている

これらの点検は、書面が完成してから行うより、条文を一つ書くたびに行う方が見つかる食い違いが少なくなります。特に、日付と負担者は、条文が増えるほど食い違いが入り込みやすい箇所です。協議書を公正証書にする場合の条文の整え方は離婚給付等契約公正証書の作り方、協議書全体の書き方は離婚協議書の書き方にまとめています。

起きがちなこと

住宅・住宅ローンの条項で起きがちなこと

  • 財産分与の条で「不動産は一方の所有とする」と書き、別の条で「売却代金でローンを返済する」と書いた。所有を一方に寄せたのに売却する書き方になっていて、売却代金が誰のものになるのかが読み取れない。
  • 「ローンは一方が負担する」と書いただけで、貸し手との関係を整えていなかった。負担する側が払わなくなり、借り手である他方に請求が来た。
  • 保証を外す約束を書いたが、貸し手の承諾が得られなかったとき、どうするかが書かれていなかった。義務を負った側が何もできず、約束が実行されないまま残った。
  • 売却の期限を目安として書いたが、売れなかったときの価格の見直しの手順がなく、住宅が売れないまま、双方が返済と維持費を負担し続けた。
  • 住み続ける側が名義人でも借り手でもなく、借り手の返済が止まったことに気づくのが遅れた。返済状況を確認する方法が書かれていなかった。
  • 親族からの援助金を返す約束を書いたが、その金銭が貸付けか贈与かを決めておらず、返す金額と時期が食い違った。
  • 登記の協力を求めたが、離婚後に相手方の住所が分からなくなった。連絡先の変更を通知する義務が書かれていなかった。

どの場面にも共通するのは、住宅の条項が、財産分与、債務の分担、売却、居住の継続という複数の条にまたがり、それぞれが別の時点で書かれやすいことです。書き終えたあとに、日付と負担者を軸に全体を読み直すことが、食い違いを見つけるいちばん確実な方法です。支払いが止まったときの対応は協議書を作った後に起きることで整理しています。

よくあるご質問

離婚するとき、住宅ローンの名義は協議書で変えられますか。

協議書で変えられるのは、夫婦の間の負担の分担です。ローンの契約上の借り手や保証人の地位は、貸し手(債権者)との契約で決まっているため、夫婦間の合意だけで変えることはできません。借り手を変える、一方を保証人から外す、といった場合は、債務引受(民法470条・472条)や借換えなど、貸し手が関わる手続が必要になります。協議書には、夫婦間の負担の分担と、貸し手との関係を整える約束(誰が、いつまでに、承諾が得られなかったときはどうするか)を分けて書きます。

住宅を売って、ローンを返し切れなかったら、不足分はどうなりますか。

売却代金で借入金を完済できないとき、完済できないと担保の抵当権が外れないのが通常です。そのため、不足額を誰がどのように負担するかを、売却の前に決めておく必要があります。協議書には、不足額の負担者と、支払いの方法(一括か分割か)、支払えないときの扱いを、売却代金の充当順序と同じ条文の中に書きます。具体的な扱いは、借入れの契約の条項によって変わりますので、契約書の確認が前提です。

離婚後も元の配偶者が住み続ける場合、何を書いておくべきですか。

住む期間の終わり、期間中の借入金の返済と維持費の負担者、払えなくなったときの通知と売却への切替えを書きます。名義人でない側が住むなら、無償で住まわせる関係(使用貸借に近い関係)になるため、終了の時期や、終了時の明渡しも書いておくと食い違いを避けられます(民法593条・597条・599条)。共有のままにするなら、自己の持分を超える使用の対価(民法249条2項)を支払うのか無償にするのかも決めます。

不動産の名義変更の費用は、誰が負担するのが普通ですか。

法律に一律の決まりがあるわけではなく、夫婦の合意で決めます。協議書には、費用の負担者を明記しておきます。登記の申請は原則として登記権利者と登記義務者が共同でする(不動産登記法60条)ため、名義を移す側が協力するための義務と期限もあわせて書きます。何を誰が負担するかが書かれていないと、離婚後に費用の負担を巡って食い違いが生じやすくなります。

親族から住宅購入の援助を受けていた場合、離婚のときはどう書きますか。

まず、その援助が貸付けだったのか贈与だったのかを確かめます。貸付けなら返済の約束を協議書に書き、返済の事実を残す方法(領収の記録など)まで決めます。贈与なら返済の条項は要りませんが、離婚のときの財産分与で、その援助がどのように考慮されるかを書いておくと食い違いが減ります。援助をした親族が協議書の当事者でない場合、その親族が協議書を根拠に請求できるかどうかは別の問題です。

あわせて読みたいページ

本ページは一般的な情報提供です。個別の協議書への当てはめは、夫婦の事情や子の状況によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の夫婦や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 法務省 / 裁判所 / 日本年金機構

アトラス行政書士法人|毎日5組限定契約書・利用規約の無料チェックお手元の書類の問題点を、行政書士が詳しく指摘します。1書類につき24時間以内に回答・お1人様3種類まで無料チェックの詳細を見る›

ご依頼の前に:対応の内容

詳しい内容を見る

離婚協議書・離婚給付等契約公正証書の作成でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

公式LINEで無料相談する
アトラス行政書士法人 公式LINEの友だち追加QRコード
  1. 公式LINEを友だち追加
  2. 「離婚協議書・公正証書の作り方ガイドを見た」とメッセージを送信
  3. ご相談内容を確認し、LINEでご返信します(365日・深夜や休祭日も通常対応)

相談無料です。料金が発生するのは、お申込みいただいた書類の作成・点検だけです。

LINEで友だち追加して無料相談する

申込フォーム・お電話でもご相談いただけます。

ご依頼・納品の流れを見る